タイムスタンプとはなにか?
スキャナ保存でタイムスタンプは必須なのだろうか?

2021年12月14日

はじめに

2021年の電子帳簿保存法改正に伴い、財務省令が改正され、スキャナ保存を行う際にタイムスタンプ要件が除外される場合が追加された。

しかしながら、財務省令に規定されているタイムスタンプ除外要件についての、国税庁による解釈は恣意的であり信頼できない印象を免れ得ない。そこで、本記事では関連する情報を整理した上で、国税庁の解釈が適切かどうかの考察を行って参考として提供したい。

本記事ではタイムスタンプという用語を一般財団法人日本データ通信協会が認定する業務に係るタイムスタンプとして用いる。本記事執筆時点で認定タイムスタンプサービスは5つが登録されている。

I. タイムスタンプとはどういうものか?

A. タイムスタンプとは

最初にタイムスタンプについて知らない人のためにどのようなものかを簡単に説明する。現在日本では認定タイムスタンプサービスとして、RFC 3161という標準規格に準拠したタイムスタンプトークンを発行するサービスが利用可能となっている。

タイムスタンプトークンにはタイムスタンプ付与対象となるデジタルデータのハッシュ値情報と時刻証明情報が含まれており、タイムスタンプサービス事業者の電子証明書を使ったデジタル署名により、それらの情報が保証される。デジタル署名を使っているのでタイムスタンプトークンは改ざん不可能となっている。

ハッシュ値はデジタルデータの指紋に相当し、その改ざんを検出するのに使う。ハッシュ値はデジタルデータから計算された固定長のビット列でありデジタルデータ毎に異なるビット列になるような計算方式がハッシュアルゴリズムとして標準化されている。

また、時刻証明情報を作成しているタイムスタンプサーバは標準時刻と高精度で同期しており正確な日時が作成時刻情報として提供されるので、これを時刻保証に利用できる。

1. タイムスタンプの付与

この方式では概ね次のようにしてPDFファイルやOfficeファイルなどのデジタルデータにタイムスタンプが付与される。

  1. タイムスタンプ付与対象のデジタルデータからハッシュ値を計算して、タイムスタンプ要求としてタイムスタンプサービスに送信する。
  2. タイムスタンプサービスはハッシュ値情報に時刻証明情報をパックしてデジタル署名を付与したタイムスタンプトークンを返送する。
  3. タイムスタンプ付与対象データとタイムスタンプトークンをセットにして保存する。

2. タイムスタンプの検証

タイムスタンプトークンには、タイムスタンプサービスから取得した時刻証明が含まれているので、検証時に時刻証明を参照することでタイムスタンプ付与した時刻にそのデジタルデータが存在していたことを証明できる。

さらに、現在、手元にある(検証したい)デジタルデータがタイムスタンプ付与後に変更されていないことは次のようにして確認できる。

  1. 手元にあるデジタルデータから同じハッシュアルゴリズムを使ってハッシュ値を計算する。
  2. 計算し直したハッシュ値と、タイムスタンプトークンに保存されているハッシュ値を比較する。
  3. ハッシュ値が同一であれば、手元にあるデジタルデータは署名後に変更されていないことを確認できる。もし、手元にあるデジタルデータが署名後に改ざんされていればハッシュ値が異なるのでそのことを検出できる。
  4. タイムスタンプトークンのデジタル署名を検証する。検証結果が正常であればタイムスタンプトークン内のハッシュ値と時刻証明が改ざんされていないことを確認できる。

このようにタイムスタンプを付与することで、デジタルデータがある時刻に存在していたこと、また、タイムスタンプを付与した以後変更されていないことを確認できる。

3. タイムスタンプ付与処理に必要なシステム

例えば、社内で運用しているデジタルデータを保存・管理するシステムにタイムスタンプ機能を追加するには、次のことが必要になる。

  1. タイムスタンプサービスと接続できるデジタル署名ツール
  2. タイムスタンプサービスとの利用契約
  3. デジタル署名を検証できるツール

アンテナハウスでは「タイムスタンプサービスと接続できるデジタル署名ツール」としてPAdES用とXAdES用の2種類のライブリを販売している。

  1. PAdESはPDFファイルにデジタル署名やタイムスタンプを付与する技術でPDFの標準仕様(ISO 32000-2)で規定されている。PAdESではタイムスタンプトークンはPDFファイルの内部に保存される。PDFの標準仕様なのでAdobeのAcrobat ReaderでもPAdESによるタイムスタンプの検証ができる。
  2. XAdESはPDFファイルのみでなく、Officeファイルや画像ファイルを対象にしてデジタル署名やタイムスタンプを付与することができる。XAdESでは複数のデジタルデータに一つのタイムスタンプを付与するまとめ打ちができる。

タイムスタンプサービスは認定タイムスタンプサービス業者と契約して利用するが、通常、運用コストの負担が必要である。

自社内の文書管理システムに、タイムスタンプ機能を追加するには、さらにインターネット上のタイムスタンプサービスと自動的に接続して、ハッシュ値やタイムスタンプトークンを授受する仕組みを追加する必要がある。

B. タイムサーバーとタイムスタンプの相違

タイムスタンプと紛らわしいものに、ネットワークに正しい時刻を提供するタイムサーバーという仕組みがある。タイムサーバーの一種にNTP(ネットワーク・タイム・プロトコル)サービスがある。NTPサービスを使えば正確な時刻を取得できるが、それだけではタイムスタンプのような所定時刻の存在証明やタイムスタンプを付与した後に変更されていないことを証明することはできない。

II. 電子帳簿保存法第四条三項の変更

スキャナ保存は書面をスキャナを使ってデジタル化し、デジタルデータを保存することで書面原本を廃棄できるという制度である。電子帳簿保存法の第四条三項で規定されている。

電子帳簿保存法は1998年(平成十年)3月に制定されたものであるが、2021年3月に大きな改正がなされた。新しい法律は2022年1月から施行される。次に改正前と改正後の第四条三項を示す。

A. 改正前

2021年に改正される前の電子帳簿保存法第四条三項の全文は次のとおりである。

3 前項に規定するもののほか、保存義務者は、国税関係書類(財務省令で定めるものを除く。)の全部又は一部について、当該国税関係書類に記載されている事項を財務省令で定める装置により電磁的記録に記録する場合であって、所轄税務署長等の承認を受けたときは、財務省令で定めるところにより、当該承認を受けた国税関係書類に係る電磁的記録の保存をもって当該承認を受けた国税関係書類の保存に代えることができる。

B. 改正後

2021年3月に改正された後の電子帳簿保存法第四条三項の全文は次のとおりである。

3 前項に規定するもののほか、保存義務者は、国税関係書類(財務省令で定めるものを除く。以下この項において同じ。)の全部又は一部について、当該国税関係書類に記載されている事項を財務省令で定める装置により電磁的記録に記録する場合には、財務省令で定めるところにより、当該国税関係書類に係る電磁的記録の保存をもって当該国税関係書類の保存に代えることができる。この場合において、当該国税関係書類に係る電磁的記録の保存が当該財務省令で定めるところに従って行われていないとき(当該国税関係書類の保存が行われている場合を除く。)は、当該保存義務者は、当該電磁的記録を保存すべき期間その他の財務省令で定める要件を満たして当該電磁的記録を保存しなければならない。

C. 変更点

今回の改正で変更になった箇所を強調表示しているとおり、改正により税務署長の承認が削除され、その代わりに書面を保存していない場合には、電磁的記録を保存しなければならないことが追加された。

III. 施行規則の変更

電子帳簿保存法ではその実施方法を財務省令で定めることとされている。これは、「電子帳簿保存法施行規則」(施行規則という)として定められており、電子帳簿保存法が改正されたのに伴い、施行規則も改正されている。次に施行規則の中でスキャナ保存の特にタイムスタンプに係る部分がどのように変更になったかを示す。

A. 改正前の施行規則

改正前の施行規則ではスキャナ保存のタイムスタンプに係る規定は第三条五項にある。

第三条の関係個所を示す。

5 法第四条第三項の承認を受けている保存義務者は、次に掲げる要件に従って当該承認を受けている国税関係書類に係る電磁的記録の保存をしなければならない。

一 次に掲げる方法のいずれかにより入力すること。

イ 当該国税関係書類に係る記録事項の入力をその作成又は受領後、速やかに行うこと。

ロ 当該国税関係書類に係る記録事項の入力をその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行うこと(当該国税関係書類の作成又は受領から当該入力までの各事務の処理に関する規程を定めている場合に限る。)。

二 前号の入力に当たっては、次に掲げる要件を満たす電子計算機処理システムを使用すること。

イ スキャナ(次に掲げる要件を満たすものに限る。)を使用する電子計算機処理システムであること。

【内容省略(スキャナの解像度に関する要件)】

ロ 当該国税関係書類をスキャナで読み取る際に(当該国税関係書類の作成又は受領をする者が当該国税関係書類をスキャナで読み取る場合にあっては、その作成又は受領後その者が署名した当該国税関係書類について特に速やかに)、一の入力単位ごとの電磁的記録の記録事項に一般財団法人日本データ通信協会が認定する業務に係るタイムスタンプ(次に掲げる要件を満たすものに限る。第八条第一項第一号及び第二号において「タイムスタンプ」という。)を付すこと。

(1) 当該記録事項が変更されていないことについて、当該国税関係書類の保存期間(国税に関する法律の規定により国税関係書類の保存をしなければならないこととされている期間をいう。)を通じ、当該業務を行う者に対して確認する方法その他の方法により確認することができること。

(2) 課税期間(国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号)第二条第九号(定義)に規定する課税期間をいう。)中の任意の期間を指定し、当該期間内に付したタイムスタンプについて、一括して検証することができること。

ハ 当該国税関係書類をスキャナで読み取った際の次に掲げる情報(当該国税関係書類の作成又は受領をする者が当該国税関係書類をスキャナで読み取る場合において、当該国税関係書類の大きさが日本産業規格A列四番以下であるときは、(1)に掲げる情報に限る。)を保存すること。

【内容省略(スキャナの解像度と書類の大きさ情報)】

ニ 当該国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。

三 当該国税関係書類に係る記録事項の入力を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておくこと。

B. 改正後規則(令和4年1月1日施行)

改正後の施行規則では上述の改正前で引用した当該部分は第二条六項になっている。

第二条六項の関係個所を示す。

6 法第四条第三項の規定により国税関係書類(同項に規定する国税関係書類に限る。以下この条において同じ。)に係る電磁的記録の保存をもって当該国税関係書類の保存に代えようとする保存義務者は、次に掲げる要件(当該保存義務者が国税に関する法律の規定による当該電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしている場合には、第六号(ロ及びハに係る部分に限る。)に掲げる要件を除く。)に従って当該電磁的記録の保存をしなければならない。

一 次に掲げる方法のいずれかにより入力すること。

イ 当該国税関係書類に係る記録事項の入力をその作成又は受領後、速やかに行うこと。

ロ 当該国税関係書類に係る記録事項の入力をその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行うこと(当該国税関係書類の作成又は受領から当該入力までの各事務の処理に関する規程を定めている場合に限る。)。

二 前号の入力に当たっては、次に掲げる要件(当該保存義務者が同号イ又はロに掲げる方法により当該国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認することができる場合にあっては、ロに掲げる要件を除く。)を満たす電子計算機処理システムを使用すること。

イ スキャナ(次に掲げる要件を満たすものに限る。)を使用する電子計算機処理システムであること。

【内容省略(スキャナの解像度に関する要件)】

ロ 当該国税関係書類の作成又は受領後、速やかに一の入力単位ごとの電磁的記録の記録事項に一般財団法人日本データ通信協会が認定する業務に係るタイムスタンプ(次に掲げる要件を満たすものに限る。以下この号並びに第四条第一項第一号及び第二号において「タイムスタンプ」という。)を付すこと(当該国税関係書類の作成又は受領から当該タイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合にあっては、その業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに当該記録事項に当該タイムスタンプを付すこと)。

(1) 当該記録事項が変更されていないことについて、当該国税関係書類の保存期間(国税に関する法律の規定により国税関係書類の保存をしなければならないこととされている期間をいう。)を通じ、当該業務を行う者に対して確認する方法その他の方法により確認することができること。

(2) 課税期間(国税通則法第二条第九号(定義)に規定する課税期間をいう。第五条第二項において同じ。)中の任意の期間を指定し、当該期間内に付したタイムスタンプについて、一括して検証することができること。

ハ 当該国税関係書類をスキャナで読み取った際の次に掲げる情報(当該国税関係書類の作成又は受領をする者が当該国税関係書類をスキャナで読み取る場合において、当該国税関係書類の大きさが日本産業規格A列四番以下であるときは、(1)に掲げる情報に限る。)を保存すること。

【内容省略(スキャナの解像度と書類の大きさ情報)】

ニ 当該国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について、次に掲げる要件のいずれかを満たす電子計算機処理システムであること。

(1) 当該国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。

(2) 当該国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行うことができないこと。

三 当該国税関係書類に係る記録事項の入力を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておくこと。

以下省略

C. 変更点

施行規則の大きな変更点は、改正後第二条六項第二号柱書の()内「当該保存義務者が同号イ又はロに掲げる方法により当該国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認することができる場合にあっては、ロに掲げる要件を除く。」という文により、タイムスタンプ要件が除外される場合が示されたことである。

IV. 電子帳簿保存法取扱通達

施行規則については国税庁長官名の取扱通達が公開されている。施行規則の改正に伴い取扱通達も一部が改正された。ここでタイムスタンプ除外要件についての取り扱いが示されている。

A. タイムスタンプ要件除外の取り扱い

新しい取扱通達の4-28項にタイムスタンプ要件が除外される場合について新設されている。

(国税関係書類に係る記録事項の入力を速やかに行ったこと等を確認することができる場合(タイムスタンプを付す代わりに改ざん不可等のシステムを使用して保存する場合))

4-28 規則第2条第6項第2号ロ((タイムスタンプの付与))に掲げる要件に代えることができる同号柱書に規定する「当該保存義務者が同号(規則第2条第6項第1号)イ又はロに掲げる方法により当該国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認することができる場合」については、例えば、他者が提供するクラウドサーバ(同項第2号ニに掲げる電子計算機処理システムの要件を満たすものに限る。)により保存を行い、当該クラウドサーバがNTP Network Time Protocolサーバと同期するなどにより、その国税関係書類に係る記録事項の入力がその作成又は受領後、速やかに行われたこと(その国税関係書類の作成又は受領から当該入力までの各事務の処理に関する規程を定めている場合にあってはその国税関係書類に係る記録事項の入力がその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行われたこと)の確認ができるようにその保存日時の証明が客観的に担保されている場合が該当する。

B. 趣旨説明

取扱通達の趣旨説明には4-28 について次の解説がある。

【解説】

規則第2条第6項第2号ロは、国税関係書類についてスキャナ保存する場合には、その国税関係書類に係る記録事項にタイムスタンプを付与することを要件として規定されており、同号柱書括弧書の「当該保存義務者が同号(規則第2条第6項第1号)イ又はロに掲げる方法により当該国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認することができる場合」には、当該タイムスタンプを付与することの要件に代えることができることとされているが、本通達は、このタイムスタンプに係る要件に代えることとなる場合の具体例を明らかにしたものである。

この取扱いは、タイムスタンプ付与の代替要件として認められていることから、タイムスタンプが果たす機能である、ある時点以降変更を行っていないことの証明が必要となる。これは、スキャナ保存制度の適用要件として、スキャナによる入力要件(その保存をその作成若しくは受領後、「速やか」に行う方法又はその保存をその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、「速やか」に行う方法により入力すること)があることから求められる要件であり、スキャナデータを所定の要件を満たす電子計算機処理システムへ格納する際には、当然にこの入力要件に従って保存を行う必要があるからである。

したがって、保存義務者が合理的な方法でこの入力要件に従って保存を行ったことを証明する必要があるのであるから、その方法として、例えば、他者が提供するSaaS型のクラウドサービスが稼働するサーバ(自社システムによる時刻の改ざん可能性を排除したシステム)がNTPサーバ(ネットワーク上で現在時刻を配信するためのサーバ)と同期しており、かつ、スキャナデータが保存された時刻の記録及びその時刻が変更されていないことを確認できるなど、客観的にそのデータ保存の正確性を担保することができる場合がこれに該当する旨を明らかにしたものである。

また、スキャナデータを異なるシステムやサーバに移行する際には、スキャナデータだけでなくデータを保存した時刻と、それ以降に改変されていないことの証明に必要なだけでなくデータを保存した時刻と、それ以降に改変されていないことの証明に必要な情報も引き継ぐ必要があることに留意する。

C. 電子帳簿保存法一問一答の回答例

国税庁から公開されている電子帳簿保存法一問一答(スキャナ保存関係)の改訂版が、2022年1月から保存を開始する方向けとして公開されている。ここにもタイムスタンプ除外要件についての質問、回答と解説がある。

問30 訂正削除履歴の残る(あるいは訂正削除できない)システムに保存すれば、タイムスタンプの付与要件に代えることができるでしょうか。

【回答】

そのシステムに入力期間内に入力したことを確認できる時刻証明機能を備えていれば、タイムスタンプの付与要件に代えることができます。

【解説】

国税関係書類についてスキャナ保存する場合には、その国税関係書類に係る記録事項にタイムスタンプを付与することが要件として規定されており(規2⑥二ロ)、当該保存義務者が訂正削除履歴の残る又は訂正削除できないシステムに保存する方法により規則第2条第6項第1号の入力期限内に当該国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認することができる場合には、その確認をもって当該タイムスタンプの付与要件に代えることができることとされています。

この訂正削除履歴の残る(あるいは訂正削除ができない)システムでタイムスタンプ付与の代替要件を満たすためには、タイムスタンプが果たす機能である、ある時点以降変更を行っていないことの証明が必要となり、保存義務者が合理的な方法でこの期間制限内に入力したことを証明する必要があると考えられます。

その方法として、取扱通達4-28 では例えば、SaaS型のクラウドサービスが稼働するサーバ(自社システムによる時刻の改ざん可能性を排除したシステム)がNTPサーバ(ネットワーク上で現在時刻を配信するためのサーバ)と同期しており、かつ、スキャナデータが保存された時刻の記録及びその時刻が変更されていないことを確認できるなど、客観的にそのデータ保存の正確性を担保することができる場合が明示されています。

さらに、2021年11月に追加で公開された一問一答では、自社システム(オンプレミス)で要件を満たすかという質問、回答と解説が追加された。

Ⅱ【スキャナ保存関係】追1 タイムスタンプの付与要件に代えて入力期間内に訂正削除履歴の残るシステムに格納することとする場合には、例えば他社が提供するクラウドサーバにより保存を行い、当該クラウドサーバについて客観的な時刻証明機能を備えている必要があるとのことですが、自社システムで満たすことは可能でしょうか。

【回答】

時刻証明機能を他社へ提供しているベンダー企業以外は自社システムによりタイムスタンプ付与の代替要件を満たすことはできないと考えられます。

【解説】

自社システムについては、保存された時刻の記録についての非改ざん性を完全に証明することはできないため、法令解釈通達4-28 が求めるように保存日時の証明が客観的に担保されている場合に該当しないことから、原則自社システムで当該要件を満たすことはできません。ただし、時刻証明機能を備えたクラウドサービス等を他社へ提供しているベンダー企業等の場合には、サービスの提供を受けている利用者(第三者)との関係性から当該システムの保存時刻の非改ざん性が認められることから、自社システムであっても例外的に客観性を担保し得ると考えられます。

したがって、当該サービスを提供しているベンダー企業以外で自社システムを使用して保存要件を充足しようとする場合には、代替要件によらずタイムスタンプを付与することが必要と考えられます。

V. 考察

国税庁取扱通達は、宛先が国税局長などとなっているとおり、保存義務者に対する指示ではなく政府内部での指示である。つまり、保存義務者は国税庁の取扱通達を金科玉条として位置付けるのではなく、参考資料として内容を検討した上で独自に判断をするべきである。以下に、そのような観点で考察してみる。

A. タイムスタンプ除外要件はタイムスタンプの代替を要求しているか?

施行規則第二条第六項第二号の柱書では、保存義務者が【「当該国税関係書類に係る記録事項の入力をその作成又は受領後、速やかに行うこと」、または「当該国税関係書類に係る記録事項の入力をその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行うこと」を確認できる】場合は、ロ項の「タイムスタンプを付さねばならない要件」が除かれることになっている。

国税庁の法令解釈通達4-28では上記【】内の要件を「タイムスタンプ付与の代替要件」であるとしている。つまり、4-28では施行規則で「除外できる場合」とされている要件を「代替要件」にすり替えている。

これをもう少し詳しく見ると、タイムスタンプの基本機能は、最初に述べたように①デジタルデータがある時刻に存在していたこと、および②タイムスタンプを付与した後デジタルデータが変更されていないという二つから構成される。

従って、【「当該国税関係書類に係る記録事項の入力をその作成又は受領後、速やかに行うこと」、または「当該国税関係書類に係る記録事項の入力をその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行うこと」を確認できる】ことはタイムスタンプの本来の機能とはかけ離れている。

こう考えると施行規則の【】内の要件をタイムスタンプの代替を求める要件と解釈するのは飛躍し過ぎと考えられる。スキャナ保存に係る記録事項にタイムスタンプを付せば、多くの場合【】内要件を満たすことができるが、それは十分条件であって必要条件ではない。これをあたかも必要十分条件であるかのように解釈するのは論理的な誤りだろう。

B. オンプレミスは非改ざん性を証明できないか?

また、一問一答の問30で「そのシステムに入力期間内に入力したことを確認できる時刻証明機能を備えていれば、タイムスタンプの付与要件に代えることができます。」と回答しているが、追1では、「自社システムについては、保存された時刻の記録についての非改ざん性を完全に証明することはできない」としている。そして、「自社システムによりタイムスタンプ付与の代替要件を満たすことはできない」としている。しかしながら、ここの論理には次の問題がある。

  1. 「入力期間内に入力したことを確認できる」という施行規則の要件を「保存された時刻の記録についての非改ざん性を完全に証明」する要件に書き換えを行っている。
  2. 自社システム(オンプレミスという)で保存された時刻記録の非改ざん性を証明することができないと判断する論拠が示されていない。

そもそもタイムスタンプはタイムスタンプサービスがリクエストを受信した時刻を証明するにすぎない。つまり、たとえタイムスタンプを付したとしても入力期間内に入力したことを「完全には」確認できないのである。保存された時刻証明が改ざんされていないとしても、それが入力期間内であるかどうかは「完全には」証明しようがない。そういう技術を前提にして「保存された時刻記録の非改ざん性」とは一体何を言いたいのだろうか?

C. 施行規則の要件をどのように確保するか

こうしてみると、国税庁の解釈はあまりにも非論理的かつ恣意的であり首尾一貫していない。到底信頼するに値しない。

では、施行規則が求める【「当該国税関係書類に係る記録事項の入力をその作成又は受領後、速やかに行うこと」、または「当該国税関係書類に係る記録事項の入力をその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行うこと」を確認できる】にはどうしたら良いだろうか。この方法は国税庁の解釈に依存するのではなく、各保存義務者が自ら解決法を考えるべき課題として提示しておきたい。

参考資料

時刻認定業務認定事業者
日本データ通信協会・タイムビジネス認定センター・認定事業者一覧
RFC 3161 -インターネットX.509公開鍵インフラストラクチャタイムスタンププロトコル(TSP)
電子帳簿保存法
平成十年法律第二十五号
電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律
電子帳簿保存法施行規則
平成十年大蔵省令第四十三号
電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則
法令解釈通達
「電子帳簿保存法取扱通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sonota/kaiseir030628/index.htm
電子帳簿保存法取扱通達解説(趣旨説明)
電子帳簿保存法Q&A(一問一答)
~令和4年1月1日以後に保存等を開始する方~
電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】 (PDFファイル/882KB)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021006-031_02.pdf
お問合せの多いご質問(令和3年11月)(PDFファイル/234KB)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021010-200.pdf

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スキャナ保存でタイムスタンプは省略できないか。