PDF/Xについて (1) PDF/X-1a

最終更新日: 2006/8/19

目次

はじめに

PDFをベースにした標準仕様の中で一番普及しているものにPDF/Xファミリー仕様があります。ここでは、PDF/Xファミリー仕様の中で特にPDF/X-1a仕様について、できるだけ詳しく整理してみたいと思います。

PDF/X仕様ファミリー

PDF/X規格は、ISO 15930 で規定されている印刷用のデータ交換を目的としたPDFのサブセットです。

次に規格書の名称をあげておきます。ISO 15930規格自体には多数のファミリーがあります。

# ISO 15929 Graphic technology - Prepress digital data exchange - Guidelines and principles for the development of PDF/X standards
図形技術-製版デジタルデータ交換-PDF/X規格の開発の指針及び原則

# ISO 15930-1 Graphic technology- Prepress digital data exhange-Use of PDF- Part1:Complete exchange using CMYK data (PDF/X-1 and PDF/X-1a)
図形技術-プリプレスデジタルデータ交換-PDFの使用-第1部:CMYKデータ(PDF/X-1及びPDF/X-1a)を使用する完全交換

# ISO 15930-3 Graphic technology- Prepress digital data exhange-Use of PDF- Part3:Complete exchange suitable for colour managed workflows (PDF/X-3)
図形技術-プリプレスデジタルデータ交換-PDFの使用-第3部:色彩管理ワークフロー(PDF/X-3)に適した完全交換

# ISO 15930-4 Graphic technology -- Prepress digital data exchange using PDF -- Part 4: Complete exchange of CMYK and spot colour printing data using PDF 1.4 (PDF/X-1a)
図形技術-PDFを使用するプリプレスデジタルデータ交換-第4部:PDF 1.4 (PDF/X-1a)を使用するCMYKの完全交換及びスポットカラー印刷データ

# ISO 15930-5:2003 Graphic technology -- Prepress digital data exchange using PDF -- Part 5: Partial exchange of printing data using PDF 1.4 (PDF/X-2)
図形技術-PDFを使用するプリプレスデジタルデータ交換-第5部:PDF 1.4 (PDF/X-2)を使用する印刷データの部分交換

# ISO 15930-6:2003 Graphic technology -- Prepress digital data exchange using PDF -- Part 6: Complete exchange of printing data suitable for colour-managed workflows using PDF 1.4 (PDF/X-3)
図形技術-PDFを使用するプリプレスデジタルデータ交換-第5部:PDF 1.4 (PDF/X-3)を使用するカラー管理ワークフローに適した印刷データの完全交換

PDF/X 規格策定の原則・ガイドライン

PDF/Xには、なぜ、沢山の種類があるのでしょうか?これについて、ISO 15929 では、PDF/Xの規格策定の原則について次のように説明しています。

A1 Introduction
「PDF/Xの策定にあたり、ISO/TC 130/WG2のメンバーは、印刷・出版産業のニーズは、地域と、新聞・出版・カタログ・商業印刷など応用領域によって変化することを認識した。

このような広範なニーズに答えるために、複数の部分から構成されるISO標準を作るアプローチを選んだ。

また、アドビのPDFが進化しているので、PDF/X標準が、異なるPDFのバージョンを参照しても良いものとした。」

では、ニーズの違いとは具体的にどんなことでしょうか?

A.3 一般的要請
「次のようなニーズの違いに対応することを考える。
・送り手と受け手の間で技術的なコミュニケーションが最小ですむようなブラインド交換と、事前に技術的な合意をした上で行う交換
・一回の交換で必要な要素を入手するか、それとも、一部の要素は受け手のサイトに存在したり、あるいは、別途交換するか(完全な交換、または、部分交換)
・CMYKデータの交換、または、他のカラー空間による符号化
・送り手が期待する印刷の見栄えを指定するか、それとも、送り手が完全な全域データを提供し、受け手が実際の印刷の条件設定に責任をもつか
・オブジェクトに対して外部の参照ファイルを使うか、すべてのオブジェクトがPDFファイルに中に符号化されるか」

上のようなさまざまなニーズを考えて、複数の仕様が作成されたということです。

各仕様では、PDFの中で使用してよいオブジェクト、あるいはオブジェクトの使用に関して制約を追加しています。

A.4 コンフォーマンスの原則
「幾つかのコンフォーマンスレベルが定義されます。

PDF/Xを活用するソフトウエアには、リーダ、ライタ、ビューア、などを含みます。

PDF/Xを生成するアプリケーションは、各コンフォーマンスレベルにおいて、一部の機能のみをサポートすることが許されます

一方、PDF/Xを読むアプリケーション(ビューア、あるいは検証ソフト)は、当該のコンフォーマンスレベルの全機能を読んで、正しく処理しなければならない、とされています。」

これを見ますと、どうやら、PDF/Xのリーダを作る方が大変なようです。

PDF/X-1:2001について

PDF/X-1, PDF/X-1a (ISO 15930-1:2001)

まず、ISO 15930-1:2001を見てみます。冒頭にPDF/Xは、3つの部分に分かれるとあり、ISO 15930-1:2001は、その第1部にあたります。

第1部 PDF/X-1、PDF/X-1a これはCMYKを中心とする完全交換
第2部 PDF/X-2 印刷データの部分交換
第3部 PDF/X-3 カラー管理されたワークフローに適した完全交換

完全交換と部分交換という言葉をもう少し細かく見てみます。

完全交換と部分交換
印刷された文書は、様々な場所で、様々な組織が作成した部分的なページを集合したものとなります。最終印刷物を作るために用意されたテキスト、グラフィックス、イメージなどを伴う作業単位を複合実体(compound entity)と言います。複合実体は、1ページであったり、ページの一部であったり、あるいは複数のページになります。

完全交換とは、1回の交換の中に複合実体のすべての要素があり、かつ、複合実体を処理するための情報が複合実体の中に含まれるか、もしくは外部の標準で規定されているものです。これに対する概念は、部分交換で、これは複合実体の一部の要素を意図的に除外して交換し、別途入手するものです。

もうひとつ類似の概念として、ブラインド交換 (blind exchange) という言葉があります。

ブラインド交換とは、受け手が、送り手から受け取ったページを、送り手の意図通りにレンダリングするために、事前に技術的な情報の交換を必要としないものです。ISO 15930では、完全交換であれば、ブラインド交換になると考えているようです。

第1部はPDFを使った完全交換を規定します。
このために、交換するPDFファイルには次のものを含まねばなりません。
・フォント、フォントメトリックス、フォントの符号化、カラー空間リソースなどを含むすべてのPDFのリソース
・OPIで外部参照されるファイルはストリームとしてPDF/X-1ファイルに含む
・すべての印刷用の要素が、意図されたひとつの印刷設定のために適切に準備されている

OPI:Open Prepress Interface
もともとAldusが規定したもの。印刷用の高解像度の画像は非常に大きなサイズになるので、印刷用のDTPファイルとは別に保存し、DTPファイルの中には、そのファイルが入る場所を確保し、プロキシとして代わりの低解像度の画像を保存する方式。印刷時にOPIサーバと呼ぶフィルターを通して、高解像度画像と入れ替えます。

PDFでも同じ仕組みがあります。PDFでは、プロキシは画像またはXObjectとして、OPI辞書を伴って保存されます。

※PDF Reference 10.10.6 Open Prepress Interface (OPI) pp. 907~911

PDF/X-1, PDF/X-1aのコンフォーマンスレベル(準拠度)

第1部の規格は、コンフォーマンスレベル(準拠度)としては次の3つがあります。

(1) PDF/X-1:1999 PDF1.2に準拠して作られた、ANSI CGATS.12/1-1999
(2) PDF/X-1:2001 PDF1.3に準拠し、ISO 15930-1:2001 規格で定める
(3) PDF/X-1a:2001 PDF/X-1:2001と比べて次の3点の違いがあります。
  埋め込みファイルへのOPI参照を禁止
  PDFのEncrypt辞書(プロテクト)を使用禁止
  PDFのInfoオブジェクトにGTS_PDFXConformanceキーの値としてPDF/X-1a:2001をセットする。

PDF/X-1a:2003

PDF/X-1aは、さらに、第4部として次の規格が制定されています。

PDF/X-1a:2003 PDF1.4 に準拠し、ISO 15930-4:2003規格で定める。

第4部は、第1部を拡大し、さらに洗練したもので、第1部との違いは、次の通りです。
・PDFのバージョンが1.3から1.4にあがった。
・OPIを使用しないようにした
・ただひとつの準拠度すなわちPDF/X-1a:2003のみ規定
・PDF1.4の追加機能である、JBIG2、透明、参照されたPDF(Referenced PDF)を不許可とする

PDF/X-1a:2003もCMYKを主とする完全交換を目的とする規格です。

※参考
JBIG2
ISO のJoint Bi-Level Image Experts Groupが開発したモノクロイメージの圧縮方式
JBIGホームページ

PDF/X-1a:2001とPDF/X-1a:2003

ISO 15930-4:2003には、PDF/X-1を廃止したと明示的に書いていないのですが、様々な資料にはPDF/X-1は、廃止規格とされていると紹介されています。そこで、以後は、PDF/X-1a:2001とPDF/X-1a:2003に絞って、比較も交えて主な仕様を見てみます。

1.PDF/X-1aファイル構造

・PDF/X-1aの構造は、まずPDF Referenceに従っていることが前提となり、さらに、PDF/X-1aの仕様で書かれた制限に従わねばなりません。

・事前に各ページを色分割して、一色毎に別々のページオブジェクトにしたようなPDFは、ブラインド交換にならないので許されません。

・PDF/X-1aファイルには、最終的に印刷される要素(印刷要素:print element)と印刷向けでない要素(non-print element)を含むことができます。

・すべての複合実体(compound entity)は、ひとつのPDF/X-1aファイルに完全に含まれなければなりません。つまり、すべてのPDFのリソースや印刷要素を交換ファイルに含むこと。

2.カラー

カラーの規定は、印刷要素のみに適用されます。非印刷要素はどのようなカラーを用いても問題ありません。

印刷要素は、CMYKデータ、グレースケールデータ、またはセパレーション・カラーデータとして交換されなければなりません。

PDF/X-1aファイルの中の印刷要素は、DeviceCMYKDeviceGraySeparationDeviceNIndexPatternカラー空間を、この仕様で規定する制限に沿って使うことができます。

これらのカラー空間は、PDF Referenceに説明されるPDF専門用語です。そこで、PDF Referenceの関連部分から補足して考えてみます。

PDFでは次の種類のカラー空間を使うことができます。
(1) デバイス・カラー空間
DeviceCMYK、DeviceRGB、DeviceGray

(2) CIEベース・カラー空間
CalGray、CalRGB、Lab、ICCBased

(3)特色空間
Pattern、Indexed、Separation、DeviceN

※参考
PDF Reference Fifth Edition 4.5.2 Color Space Families

デバイス・カラー空間とは、出力デバイスが出力する色や陰を直接指定するものです。PDF/X-1aではDeviceRGBを使うことができません。

※参考
PDF Reference Fifth Edition 4.5.3 Device Color Space

CIEベース・カラー空間とは、Commission Internationale de l’Éclairageという国際機関が決めた色の標準で指定する方式です。PDF/X-1aではこれらは使えません。

PDF/XとOutput Intent

PDF/Xの仕様の策定に伴い、ドキュメントを印刷する環境や出力デバイスカラー特性とPDF文書のカラー特性をマッチさせるためにPDFのドキュメント・カタログにOutput Intent辞書が追加されました。

Output Intentは、PDF1.3では、PDFの仕様ではなく、アドビのテクニカルノート#5413として定義されました。PDF1.4からPDFの正式な仕様となっています。

PDF Referenceに説明されているOutput Intentの項目は次の通りです。なお、PDF Reference の説明とPDF/Xの各パートでの制約には不一致の部分があり、その場合は、PDF/Xの仕様書を優先することになっていますので注意してください。

表 10.50 PDF/X用の出力インテント辞書

キー必須かどうか
TypeオプションOutputIntent
S必須GTS_PDFX
OutputConditionオプション意図する出力環境を人間に分かるようにコンパクトに記述する
OutputConditionIdentifier必須意図する出力環境を人間に分かるか、機械可読な形式で記述する。一般にはICC Characterization Data Registryのような業界標準を使用する。業界標準でない場合、Customとするか、それともアプリケーション独自でも良い。
RegistryNameオプションOutputConditionIdentifierで定義される条件のURI
InfoOutputConditionIdentifierが標準の生産環境を指定していないときのみ必須意図する環境を指定するための情報を人間に可読な形で記述
DestOutputProfile同上PDFの文書を出力デバイスに変換するためのICCプロファイルのストリーム

※PDF Reference Fifth Edition (pp.899 ~ 900)

Output Intentは、現在、PDF/Xのみが規定されていますが、将来は、他の用途にも拡張されるとしています。PDF/X以外では、参考情報としての意味しかもちません。しかし、PDF/Xでは重要な役割になります。

2.1 OutputIntentによるカラー印刷特性の識別

PDF/X-1aではOutput Intentを使ってカラー印刷特性を識別します。次にOutputIntentに設定する内容について簡単に整理してみます。

OutputConditionIdentifierには、PDFのテキスト文字列が入ります。これは、RegistryNameとの組み合わせで使います。

(1) RegistryNameは意図する印刷特性を特性データ登録を使って定義するときに限り使用できます。これを使うときは、OutputConditionIdentifierの値は、その登録における参照名(Reference name)に一致しなければなりません。

代表的なものはICC特性データ登録(ICC Characterization Data Registry) です。

ICC Characterization Data Registry

CMYK Characterization data

この時、RegistryNameキーの値は、(http://www.color.org)となります。

例えば、Japan Color 2001 Coatedは、ICC Characterization Data Registryの参照名が、JC200103となっています。するとOutput intent辞書の内容は次のようになるでしょう。

<< /Type /OutputIntent             % Output intent dictionary
/S /GTS_PDFX
/OutputCondition (JC200103 (Japan Color 2001 Coated ))
/OutputConditionIdentifier (JC200103)
/RegistryName (http://www.color.org)
>>

(2) RegistryName キーがない時、OutputConditionIdentifierには特別な意味を持たせることはできません。

(3) RegistryName キーが存在して、値が (http://www.color.org)ではないときは、その値は、その登録について詳しい情報を入手可能なURLでなければなりません。

また、上の(2)または(3)の場合は、DestOutputProfileが存在しなければなりません。

OutputConditionキーは常に存在するべきで、その値は、印刷特性を、人間のオペレータに分かりやすい形式で、コンパクトに伝える情報にします。

2.2 DeviceCMYK、Device Grayカラー空間

カラー空間がDeviceCMYKまたはDeviceGrayで指定されているPDFの印刷要素は、出力インテント・オブジェクトにある印刷条件の通りに解釈します。

2.3 Separation、DeviceNカラー空間

CMYKカラーとスポットカラーに対して、SeparationかDeviceNカラー空間を使うこともできます。

PDFのSeparationカラー空間とは、対象となる出力デバイスの一種類の色素に対して名前をつけて指定する方式、DeviceNカラー空間とは、対象となる出力デバイスの多種類の色素に対して名前をつけて指定する方式です。指定した色素がない他の出力デバイスのために代替カラー空間と、そのカラー空間で、指定の色素を合成するための色調変換式を添えて出力します。

PDF/X-1aでは、すべてのSeparationとDeviceNカラー空間のリソースは、代替カラー空間としては、DeviceCMYKかDeviceGrayを使わなければなりません。

送り手と受け手が、別の約束をしていない限り、名前をつけた色素は、意図した出力デバイスで使える独立した色素でなければなりません。

SeparationまたはDeviceNカラー空間で指定したスポットカラーをプロセスカラー色素を使って印刷するときは、SeparationまたはDeviceNカラー空間の代替カラー空間と色調変換式を使います。

代替カラー空間がDeviceCMYKの場合は、PDF/X-1a準拠のリーダは、PDF/X出力インテントで識別されるCMYKを使います。また、DeviceGrayの場合は、PDF/X出力インテントで識別されるCMYKの黒と同等に処理します。

2.4 Index、Patternカラー空間

PDFのIndexとPatternカラー空間は、ベースとなるカラー空間の上にカラーのテーブルを作ってインデックスでカラーを指定するものです。この場合は、ベースとなるカラー空間に対して、上に述べた制約を適用します。

3.フォント

PDF/X-1aでは、使われているすべての文字に対して、グリフ、メトリックス情報、フォントの符号が埋め込まれていなければなりません。
受け手は、システムにインストールされているフォントではなく、PDFファイルに埋め込まれているフォントを使って、描画したり表示したりしなければなりません。

4.データ圧縮

PDF/X-1a:2003では、LZWとJBIG2圧縮を除いて使用可能となっています。これに対して、PDF/X-1a:2001は、ImageXObject以外を圧縮するなら、FlateとRunLengh圧縮のみを許可。ImageXObjectを圧縮するならJPEG、Flate、RunLengh、白黒イメージであればCCITT Fax圧縮を許可しています。

2つのレベルの仕様書で書き方が違うため、PDFで扱えるすべての圧縮方式を調べてみないと、この二つが同等かどうか分かりません。

そこで、念のために表を作ってみました。

種類PDFで使える圧縮方法PDF/X-1aで禁止
カラーとグレースケールJPEG、JPEG2000(PDF1.5~)JPEG2000は禁止でしょうね。
白黒イメージCCITT (G3, G4), RunLength, JBIG2JBIG2
テキスト、線画、イメージLZW, Flate (ZLIB)LZW
※PDF Reference Fifth Edition 2.2.2 Compression p.15

一見、PDF/X-1a:2001、PDF/X-1a:2003で同等のように見えますが、問題はPDF/X-1a:2001では、Image XObjectとそうでないものに分けていることです。PDFでは、Image XObjectというのは画像ファイルを埋め込んだものに相当しますが、それ以外にインライン・イメージがあります。インライン・イメージについては、次の圧縮方式が使えます。

LZW, Flate (ZLIB), RunLengh, CCITT, JPEG

※PDF Reference Fifth Edition 4.8.6 Inline Images pp 322- 325

結局、PDF/X-1a:2001ではインライン・イメージの圧縮にCCITT, JPEGは使えませんが、PDF/X-1a:2003では、CCITT, JPEGも使えることになります。表現方法を変えたために仕様が変わっているということです。

5.トラッピング

多カラーの印刷工程では、色別の版の位置ずれが原因で、印刷対象の周囲にギャップができたり帯ができたりする可能性があります。隣同士の色を重ねること、トラップという、により版が多少ずれても問題が起こりにくくすることができます。

トラッピングは、PDFを作成するソフトで行ったり、中間的なアプリケーションでPDFにトラップを追加したり、あるいは、最終段階のRIP(ラスター・イメージ・プロセサ)で追加することもあります。PostScriptにはトラッピングを設定することができます。しかし、PDFファイルにはトラッピングは直接指定しないで、PDFに付随もしくは埋め込まれるジョブチケットで指定します。

トラッピングを最終工程よりも前に行ったときは、トラップは、トラップ・ネットワーク注釈としてPDFに保存します。

PDF/X-1a:2001、2003ともこの部分は同じです。

まず、PDFの文書情報であるInfo辞書のTrappedキーにトラッピングされたものかどうかを記述します。
Trappedキーは、通常のPDFではオプションですが、PDF/X-1aでは必須です。そしてその値は、次のようにTrueまたはFalseでなければなりません
・PDFファイル全体がトラッピングされているならば、キーの値はTrue
・PDFファイル全体がトラッピングされていないならば、キーの値はFalse
・一部分だけトラッピングされているものは許可されません。またキーの値がUnknown(PDFの規定値)は許可されません。

PDFファイルにトラップ・ネットワーク注釈を含んでいるなら、Trappedキーの値は、Trueでなければなりません。トラップ・ネットワーク注釈を作成した後で頁を修正したら、トラップ・ネットワーク注釈は無効です。

トラップ・ネットワーク注釈の中で、トラップ・ネットワークの生成の際に代替フォントで置換されたフォントを示す、FontFauxingキーは存在しないか、存在しても空でなければなりません。トラップ・ネットワークを生成する際に想定するカラー空間を示すPCMキーの値は、DeviceCMYKでなければなりません。

6.PDFファイルの識別

PDF/X-1aのファイルは次のように識別します。
PDFのInfo辞書にGTS_PDFXVersionキーを作成します。
PDF/X-1a:2003ではキーの値が、(PDF/X-1a:2003)となります。
PDF/X-1a:2001ではキーの値が、(PDF/X-1:2001)となります。

PDF/X-1a:2001ではさらに、Info辞書にGTS_PDFXConformanceキーを作成し、このキーの値を、(PDF/X-1a:2001)とします。

このほか、PDF/X-1aの場合は、Info辞書に通常のPDFではオプションのキーを設定しなければならないものがあります。

次に比較表を挙げます。

表 PDF/X-1a の文書情報辞書の一般項目の設定

キー通常のPDFPDF/X-1a
Titleオプション必須
Authorオプション
Subjectオプション
Keywordsオプション
Creatorオプション勧告
Producerオプション勧告
CreationDateオプション必須
ModDateオプション必須
Trappedオプション必須(True, False)

必須の時、キーワードをゼロバイトにするのは許されません。

TrailerIDキーは、通常はオプションですが、PDF/X-1aでは存在しなければなりません。なお、PDF生成ソフトはIDキーがユニークになるように作るべき(勧告)とされています。

次の仕様は、PDF/X-1a:2001には記述がありませんが、PDF/X-1a:2003で追加になっています。

PDFファイルを更新したときは、ModDateを更新しなければならず、Catalog辞書のMetadataストリームも更新すべき(勧告)。

7.境界ボックス

PDFは、紙と同じようにページの概念をもつ媒体です。PDFでのページは、ツリー構造で管理され、ツリーの葉に相当する部分が1つのページです。これをページオブジェクトと言います。

ページオブジェクトには様々な属性を設定できます。これを設定したデータをページオブジェクト辞書と言います。オブジェクト辞書の設定キーの中でPDFのページ境界に関するキーを次に示します。PDF/X-1aではこれらのページの境界の設定について制限を課しています。

表 ページオブジェクト辞書のページ境界関連項目

キーPDFPDF/X1-a
MediaBox必須継承可
CropBoxオプションCropBoxがあるとき、BleedBox、ArtBox、TrimBoxのいづれもCripBoxの境界を越えないこと
BleedBoxオプションBleedBoxがあるときは、ArtBox、TrimBoxはBleedBoxの境界を越えないこと
TrimBoxオプションTrimBoxかArtBoxのどちらか、一方のみ、が設定されていなければならない。ArtBoxよりもTrimBoxの方が望ましい。
ArtBoxオプション

参考 ページ境界の意味
通常の書類をPDF化した場合のように、PDFを印刷した物が最終印刷物になる場合、MediaBox、CropBox、TrimBox、BleedBoxは一致します。しかし、PDFを印刷用のフィルムに出力する場合は、MediaBoxがフィルムの境界に相当し、TrimBoxが印刷して周囲を切り落としたページのサイズになります。

BleedBoxは、TrimBoxの外側に裁断や仕上げのために必要な幅を確保した領域です。

CropBoxは、ページの内容をクリップするための領域とされていて、他の境界線との関連性はありません。

ArtBoxはDTPソフトなどのアプリケーションが出力するもので、TrimBoxの内部でページの意味のある内容を囲む領域とされています。

※PDF Referenca Fifth Edition 10.10.1 Page Boundaries pp. 890 - 893

DTPなどの出力したEPSグラフィックスをPDFに変換したときなどに使うと、ArtBoxで切り取って他のPDFに埋め込むなどに使用できると思います。

8.拡張グラフィックス状態

PDF/X-1a準拠ファイルは、拡張グラフィック状態を現すExtGStateリソース辞書の中に、伝達関数(transfer function)キーTR,TR2、あるいはハーフトーンフェーズキーHTPを含んではなりません。

※HTPキーはPDF Reference Fifth Edition には記載がありません。ISO 15930-1, 4の両方に記載があって、PDF Reference に記載がないキーワードで、意味不明です。

また、準拠のリーダは、ハーフトーンキーHTを無視してもかまいません。

ハーフトーンキーHTは、印刷条件特性と一致するように使わなければなりません。また、ハーフトーン辞書のTransferFunctionキーはPDF Reference に指定される通りの方法でのみ使わねばなりません。

PDF/X-1a準拠のファイルでは、HalftoneTypeキーの値は1または5の値をもつことができます。

HalftoneNameキーを含むことはできません。

※ハーフトーンの使用には制限があるとされていますが、仕様書の記載とPDF Referenceの記載を併せて見てもどうも良く理解できません。画像処理の専門家による検討が必要なように思います。

9.PostScript XObject

PostScript XObjectは、PostScriptのプログラムをPDFの中に埋め込むものですが、PDF/X-1aでは使用禁止です。

なお、PDF Reference Fifth Editionでも、既に過去のものとして、使用しないことになっています。

PDF/X-1a:2003では、form XObjectsに、Subtype2キーの値PSを使用してはならないことが追記されています。これは、PostScript XObjectを、subtypeキーをformとし、Subtype2キーをPSとしても定義できますので、それを禁止したものです。

10.暗号化辞書

PDF/X-1aでは暗号化辞書は使用禁止で、PDFのセキュリティ設定は利用できません。

11.代替イメージ

image XObjectを指定するイメージ辞書には、ベースイメージに加えて複数の代替イメージを登録することができます。これはAlternatesキーにimage XObjectの配列として指定します。これらのすべての代替イメージは同じベースイメージの同じエリアのものでなければなりません。

さらに、各代替イメージには、その特性を指定しますが、DefaultForPrintingキーの値がTrueになるものは禁止されています。

12.注釈

PDF/X-1a:2001では、TrapNet以外の注釈は、完全にBleedBoxの外になければなりません。(BleedBoxがないときは、TrimBoxまたはArtBoxの外)。

PDF1.4で、注釈にPrinterMarkが追加されました。そこで、PDF/X-1a:2003では次のように変更されています。

TrapNetPrinterMark以外の注釈は、完全にBleedBoxの外になければなりません。(BleedBoxがないときは、TrimBoxまたはArtBoxの外)。

PrinterMark注釈は、TrimBoxArtBoxの外側になければなりません。

いずれにせよ、PDF/X-1aを画面に表示したり、印刷するとき、注釈が実際のページの内容に重なってはならないことを規定しています。

13.アクションとJavaScript

PDFでは、例えばしおりをクリックした時に、ビューアが新しいアプリケーションを起動したり、音を鳴らしたり、注釈の外見を変更する、JavaScriptを実行するなど、様々なアクションを設定できます。

PDF/X-1aに準拠するPDFファイルは、アクション、JavaScriptを含むことができません。

14.BX/EXオペレータの使用

PDFでは互換オペレータBX/EXが定義されています。このオペレータで囲まれた部分は、PDFの表示ソフトが理解できない場合、エラーにしないで無視するものです。

PDF/X-1aでは、Contentsストリームの中に、PDF Referenceにないオペレータを、仮にBX/EXで囲ったとしても含むことができません。

また、PDF/X-1aのリーダは、BX/EXで囲まれた部分についてもPDF Referenceに従って解釈しなければなりません。

PDF/X-1aのライターは、BX/EXを使わないことが推奨されています。

15.透明

PDF1.4から透明が定義されました。そこで、PDF/X-1a:2003では、透明を使用しないように仕様が追加になっています。

具体的には、ExtGStateオブジェクトまたはImage XObjectに、SMaskキーを使うときは、値をNoneにしなければならない。

ExtGStateオブジェクトのBMキーはNormalまたはCompatible、CAキーとcaキーの値は1.0でなければなりません。

GroupオブジェクトのSキーにTransparencyの値をもつならば、それをform XObjectに含めてはならない。


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