見積書、注文書、請求書、領収書をPDFとして作成し、Webダウンロード配信や電子メールによる送受信をしたときの保存義務について

更新日: 2021/11/3


見積書、注文書、請求書、領収書のような取引書類については、従来は書面で作成して捺印・送付するのが主流でした。しかし、最近は、PDFとして作成(以下、この4つの書類のPDF版をまとめて取引用PDFファイルといいます)、電子メールの添付ファイルとして送受信するのが一般的になっています。また、例えば、アマゾンのようなECショップでは購入した物品の領収書や請求書をPDFファイルとして作成し、ダウンロードできます。アンテナハウスのオンラインショップでも見積書PDF作成機能を用意しています。このように取引用PDFファイルをWebサイトからダウンロードして配信するECサイトが増えています。

特に、2020年4月新型コロナウィルス感染拡大を避けるために緊急事態が宣言されてから、テレワーク勤務が増えました。取引書類が書面のままでは、捺印のために出社しなければならず、これを回避するため電子印鑑がブームになったのも記憶に新しいところです。取引のための書類のやりとりを書面からPDFファイルに変更するデジタルトランスフォーメーションが盛んになっています。

この記事では、主に法人の取引を中心に取引用PDFファイルの保存義務について考察してみます。この場合、法人税法上の義務になります。なお、法人が授受する利子や配当などの取引については所得税法も関係します。

【参考】次の記事では、より実務的な観点でまとめていますのでご参照ください。
中堅・中小企業は2022年1月から施行される電子帳簿保存法第7条電子取引データ保存にどう対処するか(考察)

国税納税者の取引書類保存義務

顧客や取引先との取引書類は営業上の重要な証憑書類の一種であり、取引で問題が発生したときの対処のより所となります。さらに企業の会計・経理では、売上計算や経費支払いの裏付け書類となり、ひいては各企業の損益と納税額にも関連しています。

法人税法では、企業に対して国税関係書類の保存を義務付けています。例えば、法人税法第百二十六条(帳簿書類の備付け等)に国税関係書類の保存義務が次のように規定されています。なお第百二十一条は青色申告の承認です。

第百二十一条第一項の承認を受けている内国法人は、財務省令に定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿を保存しなければならない。

財務省の法人税法施行規則の第五十九条で帳簿書類の整理保存等について次のように規定しています。

第五十九条 青色申告法人は、次に掲げる帳簿書類を整理し、起算日から七年間、これを納税地(第三号に掲げる書類にあつては、当該納税地又は同号の取引に係る国内の事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地)に保存しなければならない。

  • 一 第五十四条(取引に関する帳簿及び記載事項)に規定する帳簿並びに当該青色申告法人の資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引に関して作成されたその他の帳簿
  • 二 棚卸表、貸借対照表及び損益計算書並びに決算に関して作成されたその他の書類
  • 三 取引に関して、相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し

国税庁は、法人税の徴収を行う立場から、見積書、注文書、請求書、領収書などを国税関係書類として指定しており、取引に際して相手方から受け取った国税関係書類と相手方に渡した国税関係書類の写しの保存を納税者に義務付けています。そして、国税関係の書類は、原則として書面(紙)保存が義務付けられています。それは、「写し」という用語が用いられていることからもわかります。法律を制定した時点では、取引用PDFファイルのようなデジタル書類は想定外だったわけで、取引用PDFファイルは国税関係書類にはあたらず、大元の法人税法での保存義務は適用されないと考えられます。

なお、国税には法人税以外に所得税、消費税などもありますが、同様に同様に書類の保存が義務付けられています。

国税関係書類のデジタル保存について

国税関係書類のデジタル保存については、「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(「電子帳簿保存法」といいます)で特例として定められています。また財務省令「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則」(以下、「施行規則」といいます)が定められています(参考資料[1])。

電子帳簿保存法は2021年3月26日に改正され、帳簿書類のデジタル保存の手続きが抜本的に見直されました(参考資料[2])。また、施行規則も改定されています。以下の議論は、改正後の電子帳簿保存法およびその施行規則に基づいており、これらの法令の施行日は2022年1月1日からとなっています。

電子帳簿保存法第4条

第4条では、ある条件を満たすときには、国税関係帳簿書類を紙に代えてデジタルデータで保存できると規定しています。第4条1項は、会計システムなどを使って自己が最初の記録段階から一貫してコンピュータを使用して作成している「帳簿」が対象です。第4条2項は自己が一貫してコンピュータを使用して作成している「国税関係書類」が対象です。第4条3項は、書面をスキャンしてPDFなどの電子ファイルとしたときのデジタル保存と原本廃棄を認める(スキャナ保存といいます)条件について定めています。

第4条はあくまで紙保存を原則とし、特例としてデジタル保存を認めるとしていることに注意してください。

取引用PDFファイルは第4条による保存の対象か

取引用PDFが、電子帳簿保存法第4条で該当する可能性があるのは2項のみです。第4条2項の原文(2021年3月改正版)は次のようになっています。

保存義務者は、国税関係書類の全部又は一部について、自己が一貫して電子計算機を使用して作成する場合には、財務省令で定めるところにより、当該国税関係書類に係る電磁的記録の保存をもって当該国税関係書類の保存に代えることができる。

では、取引用PDFファイルが第4条2項による保存の対象になるかどうか検討してみましょう。

(1) 取引用PDFファイルを作成して送信したとき

たとえば、Microsoft Wordで請求書を作成し、それをPDFファイルとして用意して、PDFファイルのままの状態で捺印処理して、取引先に電子的に送付したとします。このとき、(PDFファイルから書面にプリントアウトしていなければ)、(国税関係書類である書面の)請求書は手元には存在せず、むろんその写しも存在しません。従って、この取引用PDFファイルは、電子帳簿保存法第4条2項の対象外になるはずです。

ただし、注意すべきパターンがいくつかありそうです。従来、例えばMicrosoft Wordで請求書を作成し、それをPDFファイルとして用意して取引先に電子的に送付するとともに、請求書をプリントアウトして書面の控えとして保存している場合は、書面の写しの保存からデジタル保存への切り替えとなるため、第4条2項の対象になります。

なお、Microsoft Wordで請求書を作成し、一旦、プリントアウトして書面として、そこにアナログの捺印を行ったのち、スキャナで読み取って電子化して作成したPDFファイルを取引先に送付した場合は、そのPDFファイルは自己が一貫してコンピュータで作成したことになりません。この場合は、書面の控えが第4条3項スキャナ保存の対象になります。

(2) 取引用PDFファイルを受け取ったとき

電子メールで受け取った取引用PDFファイルやWebサイトからダウンロードした取引用PDFファイルは取引先が作成したものなので、受け取った側について自己が一貫してコンピュータを使用して作成していることになりません。従って、これらの取引用PDFファイルのデジタル保存は第4条2項の対象にはならないでしょう。実際に、「電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】」を見ますと、受領した書類は、第4条2項の対象にされていません。

このように電子帳簿保存法の中核である第4条2項では自己がコンピュータで取引用PDFファイルを作成して、それをデジタルのまま取引先に送信するとそのPDFファイルは考慮の対象外となり、一方、受信したPDFファイルも考慮の対象外です。以上により、取引用PDFファイルは、電子帳簿保存法第4条の対象外と考えられます(注1)。

取引用PDFファイルは電子帳簿保存法第7条で保存義務がある

このままでは、取引用PDFファイルは保存義務の対象外となるわけですが、それを避けるために、電子帳簿保存法は法人税・所得税の保存義務者が電子取引を行った場合、その取引情報を保存しなければならないと定めています。

2021年3月の改正前は第十条で次のように定められていました。

第十条 所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。ただし、財務省令で定めるところにより、当該電磁的記録を出力することにより作成した書面又は電子計算機出力マイクロフィルムを保存する場合は、この限りでない。

改正後は第七条となり、次のように変わりました。改正前は取引用PDFファイルをプリントアウトして書面として保存しても良かったのですが、改正後は書面保存が廃止されました。(注2)

第七条 所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。

国税庁は2020年7月に「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(参考資料[3])を新しく公開しました。「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」は、2021年7月9日に改定されています。これを見ると、電子取引用PDFファイルを作成し、そのPDFファイルを電子メールの添付ファイルとして送受して受発注関係業務を行ったり、Web経由でダウンロードした場合は電子取引に該当し、取引用PDFファイルを保存しなければならないことが明確にされています。なお、電子メールの本文で取引データを記載した場合は、電子メールの本文を保存することになります。電子メール本文はテキストですが、PDF DriverなどでPDFに変換して保存することも認められるようです。

電子取引データの保存にあたっては次の要件があります。

  1. 保存にあたっての措置
  2. 検索機能の確保
  3. 電子計算機システムの概要を記載した書類の備え付け(自社開発のプログラムを使用するとき)
  4. ディスプレイで表示して確認できるようにしておくこと

保存にあたっての措置

保存にあたっては真実性を確保するために、何らかの改ざん防止策を取って保存しなければなりません。詳しくは施行規則第四条(2022年1月1日施行版)に定められていますが、大雑把には次の4項目のどれかの措置を取る必要があります。

  1. デジタルファイルの記録事項にタイムスタンプを付してから、取引情報の授受を行う。
  2. デジタルファイルの受け渡し後、時間をおかずに記録事項にタイムスタンプを押す。
  3. デジタルファイルの記録事項について、訂正または削除を行ったばあいにこれらの事実及び内容を確認することができるコンピュータシステムまたは訂正もしくは削除を行うことができないコンピュータシステムを使用して、その取引情報の授受及びそのデジタルファイルの保存を行うこと。
  4. 正当な理由なく訂正及び削除を防止する事務処理規定を設けて備え付け、規定に沿った運用を行う。

なお、授受したデータにより複数の改ざん防止策の方式を混在させても構いません。

電子取引用PDFファイル保存の検索要件

施行規則ではさらに保存した取引用PDFファイルを検索できるようにしておくことを求めています。検索では原則として次の条件を満たす必要があります。

  1. 取引年月日その他の日付、取引金額、取引先を検索条件として設定できること
  2. 日付と金額については範囲を指定して条件設定できること
  3. 二つ以上の任意の記録項目を組み合わせて検索できること

保存義務者が国税庁等の当該職員の質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、範囲指定及び項目を組み合わせて設定できる機能の確保は不要です。このほか、基準期間の売上高1000万円以下で、保存義務者が国税庁等の当該職員の質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じるなら検索要件は不要です。

電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】では、検索の要件について、特に、「対象となるデータを検索できる状態で保存する要件を満たすためには、PDFファイルを電子メールの添付ファイルとしている場合、メールソフト上で閲覧できるだけでは十分とはいえない。」とされています。

関連情報

(注1)このような議論の流れは不自然です。しかし、そうなってしまうのは財務省関係の法律が書面による保存を大前提としており、電子帳簿保存法によって、PDFファイルのような電子ファイルでの保存を書面の代わりに特例として許すという建付けになっているためです。このような法律の建付けは帳簿や書類をデジタルで作成して、デジタルで交換する時代では実態とまったくかけ離れてしまっています。本来であれば大元の法人税法などの法律を変更するべきでしょう。

(注2)改正前の第十条、改正後の第七条とも、すべての保存義務者ではなくて、所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者に限定されています。

参考資料 (リンクをクリックすると、別タブで該当のページが開きます。)

【ご注意】本記事の内容は、ひとつの考え方として読者の参考のために公開するものであり、国税庁のお墨付きを得たものではありません。書類の保存に関しては政府・地方自治体による各種の規制があります。こうした規制の原点は法律であり、さらに所轄の役所による法令や取り扱い規則を定めています。この記事の内容は2021年7月時点で整理したものですが、改正された法律は2022年1月から施行されることに注意してください。

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